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ハナの父親が死んだのはそれからまもなくしてのことだった。
この流行病のせいで両親とも失ってしまったハナは泣き崩れて、亡骸と離れ離れになることを拒んだ。

しかし、死んでもなおその体に付着している可能性のある細菌を恐れて、村人たちは父親の亡骸をさっさと地中深くに埋めてしまっていた。


「ひとりぼっちになっちゃったわ」


父親の亡骸が家から消えた日、武雄はずっとハナのそばにいた。
狭霧村の唯一の産業とも言える米の収穫時期だったが、幼馴染の美しいハナをほってはおけなかった。


「大丈夫だよハナ。俺がいるから」


そういう武雄は今にも『家族になろう』と、口から出かかっていた。
だけどふたりはまだ18歳。

当時としては結婚は早くない年齢だったが、両親を失ったばかりのハナにその話をするのははばかられてしまった。
武雄は夜中ハナの手を握りしめていたのだった。