いきなり聞こえて来た声に、私は人の部屋に勝手に入って……を飲み込んだ。だって、ここはイーサンが所有する邸で、私はまだ彼の妻でもない。

 こんな頼りない立場で、彼に対しどんな文句が言えるって言うの。

「いや、ミスヴェアの王太子が珍しく父王に逆らったという、噂を聞いてね」

「え。ギャレット様が……? どんな噂話なの?」

 このイーサンもそうだけど、私の前で誰もがギャレット殿下の話をしなくなった。

 だって、イーサンの持つお金に目がくらみ、ギャレット様を捨てた女だと思われているもの。そんな嫌な人物の前で、可哀想な彼の話をする訳がない。

 イーサンがここで彼の話をしたことに驚いた。だからこそ、よほどのことが起こったのだろうと、そう思った。

「あいつは次の婚約者にと勧められたバイロン家のベルセフォネとだけは、結婚しないと言い張った。王は婚約者に逃げられた直後だから無理もないとそれを許し、王妃は自分の言うことの聞かない王太子について、不満を募らせている。まあ……仕方ない。生さぬ仲の義理の息子だしな」

「……え?」