「ええ……ほんの世間話程度ですが。偶然、名前を知ることになりましたが、彼ももう少しで王太子妃になる私の顔を、覚えて貰いたいのかもしれません」

 ギャレット様のお顔はとても整っている代わりに、真顔になると少々怖い。

 それも、戦う剣士でもあるせいか目力が異常に強いので、間近で彼の視線を受け止める私は体力を削られていくしかない。

 この状況で、私が逃げてしまうのもおかしい。だって、私は彼のことを好きだから婚約者に選ばれているのだから。

 ギャレット様、お願いだから……もう少し、離れてえ……。

「ローレンには、少し隙があるようだな」

「隙ですか? いいえ。私はそのような……」

 珍しく相当苛立っている様子のギャレット様は、眉を寄せて顔を近づけた。

「随分とあいつと親しげに話しているように、俺には見えた……何か個人的な話でもしていたのか?」

「何を……いいえ。それは気のせいですよ。彼と私は、名前を知っている程度の仲ですもの」

 王妃様はきっと、恋愛に全く興味なさそうだったギャレット様が、こんなにも私の行動を気にしていることを知らないのだ。