「まあ、もうそう遠い話でもないだろう。父に聞いてみようか。この国の決まりで婚約期間は一年は取ることになるが、そうすれば式の準備に移るだろう」

「ええ。そうですよね。私も楽しみにしています」

 ギャレット様とは昼下がりのお茶を飲みながら、そんな会話を交わした。政務に多忙な彼はほんの少し話しただけで、急ぎだと呼ばれて去っていった。

 ギャレット様の宮からの帰り道。私は王太子の婚約者でありながら、期間限定であるという自分の複雑な立場を早く終わらせてしまいたいと強く願ってしまった。

 王妃様よりこの話を引き受けた時、私が一年間だけ演技する程度で、この苦境が抜けられるならとふたつ返事で引き受けた。

 こうして城の中で王太子妃となるための教育を受け、王族より必要なものは与えられるような日々を過ごしていると、メートランド侯爵家の窮状を見ずに済むせいかもしれない。

 いつまでもギャレット様の疑問に二人の関係の核心に迫ることなく、上手いこと言って逃げ続けられる訳もない。

 私とギャレット様は婚約者でありながら結婚をしないのだけど、それを彼には明かすことが出来ない。