「アニータ様は、バイロン家の血筋からお前の妃を選ぶのかと思っていた。ギャレットの婚約者になりたいと本人が強く望んでいるからという理由で、メートランド侯爵家のご令嬢を選ぶとは。なんだか、意外だったな……」

 幼い頃から共に居る乳兄弟で専属護衛騎士のガレスは俺の婚約者について、首を捻った。前々からこうだろうと思っていた、自分の予想が外れたことに不満らしい。ガレスは強面でいかにも肉体派に見える大きな身体を持ってはいるが、見た目を裏切り頭脳派の切れ者だ。

 守られるべき王族ではあるものの、俺がその辺の護衛以上に剣を使えるのもあって、常に行動を共にする専属護衛騎士は彼一人だけだ。

 決められた政務に関する勉強の後は、騎士団の戦闘訓練に混じったり、剣技の稽古に励んだりと自由に時を過ごす。日々多くの人目に晒される生活を何十年と続けると、こうして人目のない時間を選んで城を歩きたくもなる。

 ミスヴェア王国には、現在これだと目に見えるような危機はなく、周辺国との関係も良好。国民の誰もがゆったりと思えるような、平和でのどかな時間が流れていた。