「おかしいよ。頑張っている姉上の足を引っ張るしか能のない、あんな役立たずなのに? ……こっちから、もう捨ててやろうよ。確かに子は親は選べないが、僕らにだって庇護者を選ぶ権利はあるはずだ。母上が亡くなり、哀しむのは理解出来るよ。僕たち子どもが見ているのもつらいくらいの仲の良い夫婦だったもんね。けど、亡くなってから何年が経っていると思ってるの? 母上だって、こんなことを望んでいた訳ではないと思う」

「クイン。わかったから。もう良いから……止めなさい」

 だんだんと興奮していく様子のクインに、冷静になるように私は言った。

 私は今ギャレット様の婚約者として、王太子妃の教育を受けるために将来住むべき宮を用意して貰いそこに住んでいる。

 クインは父と二人暮らしだから、使用人を最低限に置き、庭師を雇う余裕もないから、庭も何もない。

 今では人が住んでいるように見えない廃墟のようになってしまったメートランド侯爵邸が、本当に嫌になってしまっているのだろう。

「いつまでも……じめじめと妻の死を泣き暮らし、酒に溺れ賭け事をして……守るべき姉上を苦しめる。あんな奴……」