「……うん。そうなんだ。理屈ではないんだ。親に決められた婚約者を好きになるべきだと、君のお父さんも思っていたはずだ……けれど、好きになったら止められなかったんだと思うよ。だが、アニータが復讐を選んだ気持ちもわかる。それをしても、何にもならないとわかっていても、そうせざるを得ない気持ちも」

「お父様の心変わりは……仕方ないことだったと、理解は出来ます。けれど、王妃……様も、自分の幸せを掴むべきだったと思います。だって、当てつけのように国で一番身分の高い王と結婚したって、全然幸せそうには見えなかったもの」

 ゆらゆらと揺れる馬車の窓から、もう見えなくなった民家のことを思った。

 あの家で彼女とお父様は、幸せな結婚生活を築くはずだった。けれど、それは片方の裏切りによって叶わぬ夢になった。

 自分がその時不幸になったからと、いつまでも引き摺ってしまうことは、より不幸になってしまうのだと思う。

 王妃は美しい人なのだから、彼女がその気になれば、うちのお父様より美形の男性に巡り会うかもしれなかったし、ミズウェア王国の王様なんて比較にならないくらいの権力の持ち主と愛し合えたかも。