もし、あのお金が騙されやすい父の手に今あったらと思うと、背筋がゾッとする。

 とは言っても、クインはまだ学生で十歳だ。家のお金の工面の話なんて、普通なら聞くこともなくすくすくと育っているはずなのに悲しい。

 お母様だって、これを知れば悲しむはずだ。

「クイン。お父様もお母様が亡くなって、とても辛いのよ。あの人には私とクインだけが残された家族なんだから、そんな風に言わないで」

 私だって、本音のところではクインと同じ気持ちだ。

 けれど、幼いクインより、世の中を知っている。今まで貴族として生きてきた私たちが平民として落ちぶれれば、酷いことになってしまうのは目に見えているだろう。

 ちなみに父は実家の子爵家からは、縁を切られている。

 現在のメートランド侯爵家の惨状を見れば、仕方のないことだ。父が容姿だけしか良くない男だということが、すぐに知れる。