彼の護衛騎士、体の大きなガレスが通路で立ち止まっている私を見て、談笑していたギャレット様に耳打ちしたようだ。 

「……ローレン! すまない。もうそんな時間だったか」

「お邪魔でしたか? ギャレット様。もし……お忙しいのなら、出直して来ます」

「いいや、仕事の話は既に終わり、少し世間話をしていただけなんだ。悪い。それでは俺は、可愛い婚約者とこれから出かけてくるよ」

 ギャレット様の周囲に集っていた面々は、次々に私に挨拶をして去って行った。

 ここで私が安心したのは、いかにもギャレット様の側近の彼らは私を悪く思っていなさそうだと思えたこと……ギャレット様本人の前で、そういう態度が出せなかった臆病者ばかりなのかもしれないけど。

「……ローレン。ローレンが恐れているより、君の状況は悪いものではないと思う」

 私の思っていたことを見透かしたように、彼はそう言った。

「どっ……どうして、そう思うんですか……私……誰かに指示されたのだとしても、ギャレット様のことを裏切ったことは、変わりません」