そして、そろりと慎重にこちらへ近寄ろうとした気配を感じたので、私は両手をあげてそれを防いだ。

「待って! 近寄らないでください!」

「え! 何? 俺がそんなに嫌なのか?」

「近くに居ると、恥ずかしいんです……本当に、ごめんなさい」

「え……? え? あ。そういう……俺が近くに居ると、恥ずかしいから?」

「そうなんです。ごめんなさい……」

 ようやく、嫌がられたりとか嫌われたりとか、そういう嫌な意味ではないと思い至ったのか、私の言葉に何度か頷いたギャレット様もそろそろと私の居る反対側扉の方にまで寄った。

「わかった。ごめん……なるべく、離れるようにする」

 素直なギャレット様は近寄りたくないといった私の希望を聞き入れ、王族用とは言えそこまで広くない馬車の中で出来る限り離れてくれた。

 となると、私の方はとても自分勝手な気持ちだけど、なんだか物足りなくなって来てしまった。

 ちらっと反対側を見ればギャレット様は、ようやくここまできたのに何か下手なことをしでかしてはいけないと思っているのか、息を殺して座っているようだ。