黙ったままの私を不思議に思ったのか座席の隣に座るギャレット様に、顔を覗き込まれて……もう駄目だった。

 不意打ちに我慢出来ず反射的に私は慌てて馬車の扉近くまで離れてしまったので、いきなりの動きに彼は呆気に取られてしまったようだった。

「え?」

「ごっ……ごめんなさい。今、私。ギャレット様に近寄って欲しくなくて……」

 私の言葉を聞いて驚いていたギャレット様は、あからさまにショックを受けた表情になった。

 彼は悪いことはしてないけど、その存在で私をドキドキさせてしまうのが悪いっていうか……本当に、心臓に悪い。

「え……俺が、何か悪いことした? 悪い。いくら考えてもローレンを何で怒らせたか、わからない……ごめん」

 ギャレット様は黙ったまま俯いた私に、自分が何かしたのかはわからないが、ここはとにかく謝っておこうと思ったみたいだ。多分、正しい。

 王族は立場上なるべく謝らないらしいけど、彼は悪いなと思ったら割と気軽に謝っている。剣も王子であるとはおかしいくらいに使えるし、やっぱりギャレット様は世にも珍しい王子様なんだと思う。