今のところ王太子の婚約者の私の前に、堂々と立ちはだかった彼女こそ、ギャレット様の本来の婚約者であるペルセフォネ・バイロン伯爵令嬢だ。バイロン家は現王妃の実家で、彼女は姪にあたる。

 細身に緑色のドレスを纏った彼女は真っ直ぐな黒髪に緑色の目を持っていて、儚げで美しい外見とは裏腹に、とても気が強い。ええ。本当に……嫌になるくらい。

 きっと、彼女に先程のギャレット様とのやりとりを、見られてしまったのだ。必要以上に彼に近づくなと厳命されているというのに……これは、面倒なことになってしまった。

 とはいえ、ここで彼女に向けて「そういう態度を取っていたつもりはないですが、ギャレット様に予想外に気に入られてしまって、本当に申し訳ございません」としおらしく謝罪したところで、余計に怒り出すだけだろう。これが、ただの事実なのだけど。

 どんなに不条理な言い分だとしても、向こうからすれば任務を遂行出来ていない私がすべて悪い。こんなに弱い立場では、何を言ってもやぶ蛇になりかねない。

 どうにかして、上手く言い訳をしなければ。