ぼくは目が見えない。
12歳の秋に緑内障と先輩の暴力で失明してしまった。
それで、それまでに見てきた夢は全て捨てざるを得なかった。
 本当は調理師になりたかった。
中華料理のあの豪快さに心打たれていた。
でも、気付いたら鍼灸師になっていた。
 出来ればミュージシャンにもなりたかった。
それも有ってギターを死ぬほど練習した。
でも結局はなれなかった。
今は好きな人のために歌っている。
 54年も生きてきて不意に振り返ることが有る。
何のために生れたんだろうって。
誰のために生れたんだろうって。
その答えをずっと探し続けていた。
君に会うまでは。

 生まれた頃、父と母は知人の物置に住んでいた。
裸電球一つがぶら下がった居間と台所、、、。
そして小さな風呂とトイレが付いているまあまあ住めればいい家だった。
 ぼくは先天性白内障を抱えて生まれてきた。
耳も不自由だった。
 絶望していたはずの母は愚痴一つこぼさずにぼくを育ててくれた。
死ぬ日までぼくには文句一つ言わなかった。
失明した時も母は文句を言うことも無く現実を受け入れてくれていた。
 最後まで母が悔んでいたのはぼくを独りぼっちにしたことだった。
それ以外の文句は全て胸に仕舞って旅立ってくれたんだ。
言ってほしかったよ。 話してほしかったよ。
聞きたかったよ。 でも叶わなかった。
それだけは、、、。