「あいつは昔からそうなんだ。俺にすら抱えてることを吐き出さず、…1度、俺は彰を殴ったことがある」
それもここで、と。
親友であった寺田監督にすら見せなかったんだから、そりゃ娘になんか見せたがらないよね。
ピッチャーをやっていたくらいだ。
きっと責任感が誰よりも強くて、格好つけたい人だったはずなのだから。
「それでも彰は何も表情を変えなかったよ。……でも、」
でも……?
思わず視線を移すと、マウンドを見つめつづけていた寺田監督は瞳を伏せた。
「手をな、」
「手…?」
「ああ、俺が手を握ってやったとき。その瞬間、ぼろぼろと涙を流したんだ。…あんなのを見たのは初めてだった」
私も、そうしてあげれば良かったんだと。
それだけで、良かったんだと。
苦手なお酒ばかりを呑んで、でも必ず私が学校に行く前は「行ってらっしゃい」と言ってくれたお父さんを。
同じように帰って来たとき、「おかえり」と言ってくれたお父さんを。
手を握ってあげるだけ。
そんな、そんな簡単なことで良かったんだ───…。



