そこは甘く優しい世界

 こめかみが痛む。

 小春が先程のことを思い返していると、ファミレスの外へと視線を投じていた奏斗が、「あー……」と気まずそうな声を出す。

「あの、そのことだけど」
「どのことですか?」
「俺たち……初対面、ではなくてですね」

 奏斗の言葉に、小春は目を丸くする。しかしすぐに彼が苦笑いを浮かべ、また「いや」と首をひねった。

「ほぼ初対面なのは本当。……何回か、大学の講義で隣に座ったことあるんだけど、覚えてないよね?」
「……同じ大学だったんですね」
「そこからだよね分かってた」

 うんうんと食い気味に頷いた奏斗は、頬を掻いて。

「そのときに、何というか……印象に残ってたというか」
「印象?」
「一目惚れかもしれない」

 沈黙が落ちた。

 小春は何を言われたのかと暫し呆けてから、頬に紅葉を散らす。

 異性に──しかも優しくて格好いい人に、こんなことを言われたのは初めてだった。

 今までずっと大雅に縛られていたから、小春は胸がきゅんとするような恋をしたことがない。仄かに興味を惹かれる人はいたが、大雅に脅されでもしたのか数日も経てば小春を避けるようになるのが常だった。

 だからどうしたら良いのかわからない。わからないが、とても嬉しいのは確かだ。

「あ、ありがとうございます」
「えっ、いや、こちらこそ……?」

 深々と頭を下げてしまった小春に、驚いた奏斗も顔を赤らめつつ頭を下げる。珍妙なやり取りに先に吹き出したのはどちらだったか、互いに姿勢を戻して。