柊星くんは溺愛したい

「こっち見て。杏奈の可愛い顔見たい」

見下ろしている先輩の顔が近づいてくる。成す術を失った私はせめてものとして目を瞑った。


どきどきと大きな音を立てる心臓の音が彼に伝わっていなければいいなと思った。同時にこの人はどんな気持ちで私と関わっているのか知りたくなった。ただの遊びでなければ良いなと願う。


校内1の人気者で、その有名さは学校を越えるほどかっこよくて何でもできてしまう先輩はきっとモテるだろう。それに比べて私と言ったら取り柄もないし、可愛くもない。

____夢に見ていたそれは映画のワンシーンのような美しいキスシーンで


でも実際、私は見るに耐えない顔をしていると思う。驚くほどに私に触れた彼の唇は冷たい。

食べられるようなものではなく、啄むように一瞬重なってそして離れた。


目を開けると睫毛が触れそうなぐらい近くにまだ先輩はいた。夜の帳を作り出すようにベージュブラウンの髪が垂れて影を作る。


「……キスは初めて?」


柊星先輩の口元ばかりに目が行ってしまう。未だ忘れられない感触に脳内が支配される。まるで魔法にでもかけられたように。

私は小さく頷いた。満足そうな彼の表情をきっと私は忘れられないだろう。