戻ってきて一番に目に入ったのは、リュカ様の腕に抱きつくように寄り添うローザの姿。
「今ならまだ間に合いますわ。
お姉さまじゃなくて、私にしませんか?」
目の前が真っ暗になる。
ローザに何もかも奪われてきた私の人生。
ローザのような美しいジュエルを持たないから、仕方がないのだと諦めてきた。
でも、やっと……初めて信じてみたいと思った運命さえも、奪われるの?
リュカ様の次の言葉が怖くて、私は俯いた。
「……不快極まりないな」
静かに響く低い声。
「いつまでそうしているつもりだ?
触れることを許可した覚えはない」
顔を上げれば、リュカ様は冷たい瞳でローザを見下ろしていた。
「え……っ」
ローザが戸惑ったように声を上げる。
「あ、あのリュカ様……」
更にジロリと睨みつけられて、ローザがようやくリュカ様から手を離す。
「私は自分で見極めたものしか信じない。
そして貴方の話は、信じるに値しないと評価した」
ローザにそうはっきりと言い放つリュカ様。
「私が妻とするのはクレール・ハントリーただ1人。
その意思が変わることは決してない」
その言葉に、涙が溢れた。
この人だけは、この運命だけは―――手放さなくていいのだと。
「どうして……?
だって、クレールは……っ」
わなわなと唇を震わせるローザ。
ローザにとって、こんなことは初めてだ。
信じられない思いで一杯なのだろう。
リュカ様はその様子にため息を吐いた。
「悪意をもって姉の結婚を壊そうとする妹と、それに意を唱えない両親か。
それだけでも、君がこれまで置かれてきた環境を察することができるな」
リュカ様が、そう言って私を見つめる。
これまで私が向けられてきたような軽蔑や嫌悪は、そこになかった。
「全く……反吐が出る。
君の家族は、私が最も厭う人種のようだ」
リュカ様の言葉に、黙り込んでいた両親が身を疎める。
公爵であるリュカ様に楯突くことを恐れて口を閉ざしていたが、例えローザが選ばれたとしても反対することはなかったのだろう。
「これ以上、こんな場所に置いておく訳にはいかない。
君には今日から私の屋敷に住んでもらう。いいね?」
「は、はい……!」
元より少ない荷物は、すでにまとめ終わっている。
私が頷くと、リュカ様がこちらへ歩いてくる。
そして私の隣に立つと、手を差し出して。
「さあ、行こう」
私はそっと自分の手を重ねる。
「最後に一つ忠告しておく」
振り返ったリュカ様が、ローザと両親に向けて告げた。
「この先、私の妻となるクレールに対する侮辱も謂れのない悪評を流すことも許さない。
彼女に対する危害になると判断した際には……例え身内だろうと容赦はしない」
「も、もちろんそのようなことは致しません……!
ローザにもよく言って聞かせますので……!」
冷や汗を浮かべた父が、平身低頭に答えた。
母はどこか強張った顔で、口を噤んだままだった。
私はリュカ様に手を引かれて、部屋を後にする。
最後に振り返った時に見たものは、顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけるローザの姿だった。
最上級の乗り心地の馬車に乗って、到着したウィリアーズ公爵家。
それは、ハントリー男爵家とは比べ物にならない程に立派なお屋敷だった。
「おかえりなさいませ」
屋敷に足を踏み入れると、先日のパーティーで見た従者を筆頭にずらりと並んだ使用人たちがリュカ様のことを出迎える。
その光景に圧倒されて、足が竦むようだった。
そんな私の心情を見越したように、そっとリュカ様の手が肩に触れた。
「ウィリアーズ家にようこそ」
見上げれば、リュカ様は優しく私を見つめながら言う。
「今日からここが君の家だ」
(……私の……)
新たな人生が―――ここから始まる。
「今ならまだ間に合いますわ。
お姉さまじゃなくて、私にしませんか?」
目の前が真っ暗になる。
ローザに何もかも奪われてきた私の人生。
ローザのような美しいジュエルを持たないから、仕方がないのだと諦めてきた。
でも、やっと……初めて信じてみたいと思った運命さえも、奪われるの?
リュカ様の次の言葉が怖くて、私は俯いた。
「……不快極まりないな」
静かに響く低い声。
「いつまでそうしているつもりだ?
触れることを許可した覚えはない」
顔を上げれば、リュカ様は冷たい瞳でローザを見下ろしていた。
「え……っ」
ローザが戸惑ったように声を上げる。
「あ、あのリュカ様……」
更にジロリと睨みつけられて、ローザがようやくリュカ様から手を離す。
「私は自分で見極めたものしか信じない。
そして貴方の話は、信じるに値しないと評価した」
ローザにそうはっきりと言い放つリュカ様。
「私が妻とするのはクレール・ハントリーただ1人。
その意思が変わることは決してない」
その言葉に、涙が溢れた。
この人だけは、この運命だけは―――手放さなくていいのだと。
「どうして……?
だって、クレールは……っ」
わなわなと唇を震わせるローザ。
ローザにとって、こんなことは初めてだ。
信じられない思いで一杯なのだろう。
リュカ様はその様子にため息を吐いた。
「悪意をもって姉の結婚を壊そうとする妹と、それに意を唱えない両親か。
それだけでも、君がこれまで置かれてきた環境を察することができるな」
リュカ様が、そう言って私を見つめる。
これまで私が向けられてきたような軽蔑や嫌悪は、そこになかった。
「全く……反吐が出る。
君の家族は、私が最も厭う人種のようだ」
リュカ様の言葉に、黙り込んでいた両親が身を疎める。
公爵であるリュカ様に楯突くことを恐れて口を閉ざしていたが、例えローザが選ばれたとしても反対することはなかったのだろう。
「これ以上、こんな場所に置いておく訳にはいかない。
君には今日から私の屋敷に住んでもらう。いいね?」
「は、はい……!」
元より少ない荷物は、すでにまとめ終わっている。
私が頷くと、リュカ様がこちらへ歩いてくる。
そして私の隣に立つと、手を差し出して。
「さあ、行こう」
私はそっと自分の手を重ねる。
「最後に一つ忠告しておく」
振り返ったリュカ様が、ローザと両親に向けて告げた。
「この先、私の妻となるクレールに対する侮辱も謂れのない悪評を流すことも許さない。
彼女に対する危害になると判断した際には……例え身内だろうと容赦はしない」
「も、もちろんそのようなことは致しません……!
ローザにもよく言って聞かせますので……!」
冷や汗を浮かべた父が、平身低頭に答えた。
母はどこか強張った顔で、口を噤んだままだった。
私はリュカ様に手を引かれて、部屋を後にする。
最後に振り返った時に見たものは、顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけるローザの姿だった。
最上級の乗り心地の馬車に乗って、到着したウィリアーズ公爵家。
それは、ハントリー男爵家とは比べ物にならない程に立派なお屋敷だった。
「おかえりなさいませ」
屋敷に足を踏み入れると、先日のパーティーで見た従者を筆頭にずらりと並んだ使用人たちがリュカ様のことを出迎える。
その光景に圧倒されて、足が竦むようだった。
そんな私の心情を見越したように、そっとリュカ様の手が肩に触れた。
「ウィリアーズ家にようこそ」
見上げれば、リュカ様は優しく私を見つめながら言う。
「今日からここが君の家だ」
(……私の……)
新たな人生が―――ここから始まる。

