「ローザの婚約が決まった。
相手は伯爵家の嫡男ジョセフ・クリード様だ」

父のその言葉に、わっと歓喜の声が上がる。

「すごいわ!侯爵家から縁談がくるなんて」

母は顔を綻ばせ、興奮したように言う。

「嬉しい。
私もあの方のことを素敵だと思っていたの」

妹のローザは頬を桃色に染めながら嬉しそうに微笑む。

「“コレクター”として、ローザの“ジュエル”を気に入って下さったそうだ」

父の言葉に、ますます嬉しそうに笑うローザ。
額の色濃いピンクのルビーが、一層の美しさを誇るように輝いていた。

「さすがローザね。あなたは私の自慢だわ。
それに比べて……」

母の視線が、ちらりと私に向けられる。
その目からは、先ほどまでの優しさも愛も消え失せていた。

「ねえ、たまにはお姉さまのジュエルも見せてよ」

ローザはそう言って、俯く私を覗き込む。
まるで面白い玩具を見つけたように、その口元は吊り上がっていた。

「……でも……」

その目から逃れたくて、私は更に俯いた。
額を隠すように伸ばした前髪は、私の唯一の防衛手段だ。

「ああもう、私が見せろって言ったら見せなさいよ!」

素直に従わなかったことに苛つきを見せたローザが、乱暴に私の前髪を掴む。
そのまま持ち上げられたことで、私の額があらわになった。

「あっははは!
いつ見ても汚い石ころみたい!」

そこにあるジュエルを見て、ローザが声をあげて笑う。

「これじゃお姉さまを欲しがるコレクターなんて現れっこないわね」

ローザの言葉に、母が頷いた。

「その通りね。
どうしてこんなに姉妹で違うのかしら」

深々と吐かれた母のため息と蔑みの視線が、棘のように突き刺さった。

「こんな出来損ないのジュエルを産んでしまったなんて、恥ずかしくてしょうがないわ」

「……ごめんなさい、お母様……」

わたしはただ、俯いて涙をこらえることしかできない。

「クレール」

父に名を呼ばれて、顔を上げる。
父が私を見る目も、とても冷たいものだった。

「お前がいると場の空気が悪くなる。
もう下がっていろ」

「……はい」

この家に、私の味方はいない。
だって私は、みんなにとって価値のない―――石ころのような存在だから。