東の方角に王宮が見える。
 幾つもの塔に朝日が射している。あそこで三十余年を費やしたのだと思った。

 アーロンは侍女にかしずかれて出仕の支度をしていた。

 この国では五十歳になると退職する決まりがある。それが半年後に迫っていた。ほろ苦い笑みが湧いてくる。

 コツコツ、ふいに窓から音がした。

 駆け寄ってそれを開ける。
 一羽の鳩がアーロンを見ていた。
 ヴェンが放ったあの伝書鳩だった。

【過日のバッハス襲撃時の負傷兵多数が山の洞窟で治療。別件で負傷したデイズも同じく。ソフィー嬢が彼らを看護。追ってまた報告】

 足にそんな文が付けられていた。


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