ギースは唇を噛みしめると、
「でも、これは父上のせいでもあるんだ」
「な、なんだと!」

「あの事件で俺を勘当して、満足に小遣いもくれなかったじゃないか」
「あの事件?」

「ああ、例の密書のことだよ」
「密書だと? し、しかしあれはお前が悪いんじゃないか」

 確かにそうだった。だが、
「あの日は、・・あのソフィーを連れてくるときは辻馬車で帰って来たんだ。途中で路銀が無くなって歩く羽目になったんだ。屋敷までの金があればこんなことにはならなかったんだよ」

「それもこれもお前を立ち直らせようとしたためだ。密書で大失態をおかしたくせに、なにを言っているんだ」

「・・父上は、あれを失態と言うのですか?」
「ああ、失態でなければ何なのだ! お前のせいでこんなことになったんだぞ」

「しかしあの状態ではどうしようもなかったんだ。密書はいつの間にか無くなっていたんだ。あれを処分しようにも、そんな隙も時間もまったくなかったんだ」