シュテルツは紅茶を一口飲んだ。苦い味がする。

 先ほど、この国の王グリンドラに会ってきたのだ。

 彼は開口一番、
「お前の任期もあと一か月だな」

 その話だろうことは分かっていた。
 この国の官僚は五十歳になったら退職する決まりがある。シュテルツの誕生日がそこに迫っていた。

「長い間宰相として仕えてくれたんだ、盛大な退職式を催そうと思っている。どんな趣向がいいかの。希望があれば言ってみるといい」

「ありがたい話ではありますが」
 この王にどう話をもっていけばいいのか。

「偵察隊の報告では、バッハスに怪しい動きがあると。国境に兵を集めているとの事ですが」
「怪しい動きがあるだと。あの国とは不可侵の条約を結んでいる。それをゆめゆめ破ることはないだろうよ」
「・・・・」