あのとき・・。
 あのラクレス邸で、ソフィーは向こうの丘を見つめていた。
『母の隣に、父を連れて来てあげましょう』

 フィアーラの花が咲き乱れる、それを一望できるという丘に彼女の母の墓があった。
 凛として佇むソフィーに目を奪われた。
 この世のものとは思えないほど美しかった、そして愛おしかった・・。

 リズはそんなアーロンを見ていた。

 ゆっくりうなずくと、
「同じお嬢さまでも、違うのですね。さぞ辛かったでしょうに、それでも向かって来る不遇なものを受け止めている」
「・・ふぐうな、もの?」

「はい。そして、その不遇なものをかみ砕いて自分の足でしっかり立っていらっしゃる。それがソフィー様だと思います」
 
 ア―ロンがうなずいた。
「ああ、俺の宝だ。唯一の、かけがえのない愛おしい宝物だよ」

 二人が見つめる庭ではソフィーが子猫を抱いていた。

 やっとつかまえたそれを胸に、侍女と何かを話していた。
 そして笑っていた。