逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ

 ハインツ邸を朝日が照らしている。

 大門から王宮の迎えがやって来た。

 出迎えた執事に、
「支度はもうおすみでしょうか」

 聞かれても即答できない。
 アーロンがどこへ出向くのか、さっき聞いたばかりだった。

 ソフィーはもちろん、リズも寝耳に水だった。
 問題視されているセンダへ行くなどと。
 まして婚礼の翌日にだ。
 
 さっきアーロンは、
「誰かが行かなければならないのだ、納得してくれ」

 声も出ないソフィーに告げた。


「いつでも出発できるぞ」
 玄関からア―ロンが出てくる。

 馬に乗ろうとして、ふと静止する。
 一行の中にオルグと宰相補佐がいるのだ。

「どうしたのだ、君らが同行しているとは」

 迎えはアーロンを伴って王宮に帰り、旅装を整えてセンダへ出発する。
 だから文官二人がいることが()せなかった。

「それが、深夜に新しい情報が入りまして。あのセンダの隣町で、パレス新王とバッハス前王の軍が戦闘状態に陥ったとのことです」

「なにっ」

「夜半にお知らせしようかとも存じたのですが」
 遠慮がちなオルグに、
「ああ、俺らは新婚初夜だったからな」
 あっけらかんと言う。