逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ

 執事も、
「今日はハインツ邸でご婚礼が行われたのです。アーロン様はあなた達にも参加してもらいたいとのご意向なのです」

 負傷兵は一瞬黙った、次に大きな歓声が上がる。

 アーロンがソフィーの耳元で、
「どうだ、いい考えだろう」
「はい」
 声が震えて後が続かない。

 兵の中には歩けない者もいた。
 アーロンはソフィーを伴って部屋を回っていく。
 そのたびに歓声が起こる。
 レブロン邸は上へ下への大騒ぎになった。

 彼らにも祝い膳が配られる。
 見たこともないご馳走だった。体調によっては酒も出る。
 兵らは黙々と食べる。
 嚙みしめるたびに表情が変わっていく。

 目の前にいるのは(あるじ)のソフィーだ。彼女は幸せそうに微笑んでいる。
 夫となったのは軍の最高司令官のアーロン・ハインツだった。本来ならば兵らが対面することもない高官だ。
 しかも彼の好意でこの屋敷で手厚い治療を受けているのだ。

 わだかまりが無いとは言えなかった。
 ラクレス領とその兵は、中央政権によって翻弄されてきた。領主ダン・ラクレスと共に何度も辛酸をなめてきた。

 そんな思いが少しずつ溶けていく。
 もてなされた料理を噛みしめ、そして懸命に嚥下していった。