逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ

「センダへは馬で二時間。会見に要するのは四時間ほどでしょうか」
「では、遅くなったらセンダか帰路のどこかで宿泊することになりますか」

 ベッドのシュテルツを、オルグと宰相補佐が囲んでいる。

「いや、アーロン殿の性格では用が済めばすぐ帰って来るだろう。そこらを聞きにやらせている、間もなく返事が来るはずだ」
 出立を前に、アーロンは自邸に帰っていた。

「ところで土産は準備できたのか、マリンドウやパレス王へ渡すものだ、遜色のない物を用意しなくてはな」
「わが国特産の蒸留酒と貴重種の燻製肉を揃えました。向こうから何かを頂いても遜色はないかと」
「さすがオルグだ。それからセンダへ同行する護衛兵だが・・」

 と言いかけたとき、
「大変でございます」
 一人の男が駆け込んできた。アーロン邸に向かわせた配下だ。
「ハインツ様のお屋敷では、今日ご婚礼が行われています」

「なに、それは誰の婚礼なのだ」
「それがご当主の、アーロン様のご婚礼です」

「本当かそれは」
「なんでも内々の式だそうで。ご一家を挙げて宴が開かれています」

 婚礼の相手は言わずもがなのソフィーだ。
 だがそんな予定は全く聞いていなかった。

「ちょっと待ってくれ。だとしたらアーロン殿は婚礼の翌日に出発することになるのか」
「はい」
「それも危険極まりない会見場へ、だぞ」

 誰もが絶句した。


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