「だいじょうぶですよ」
 アーロンが遠ざかった隙にヴェンが近づいた。
「心配しなくても大丈夫です。アーロン様は本当は気になっているんですよ、あのガイのことが」
「・・え?」

「だからこんなにこだわっているんだ、あの方らしくもない」
 忠実な部下が珍しくニヤついている。

 ・・と、
「おいこらっ!」
 前方から声がとんだ。
「ぜんぶ聞こえているぞ」

「・・っ! あ、いや、ほんの独り言ですので。はいっ」
 あわてて首をすくめた。

 ソフィーがふっと笑った。
 久しぶりの笑みだった。


 一行はまもなく王都に入った。
 
 彼らは、しかしアーロンの屋敷とは違う道に進んでいく。
 
「・・え?」
 ソフィーが怪訝な顔をする。
「あ、あの、この道は? いったいどこへ行くんですか」

 振り向いたアーロンは笑っていた。
「まあ、いいから。このまま俺について来てくれ」

 目的地に近づいたのだろう、馬はしだいに並足になっていた。