「・・ソフィー様」

 アーロンはあのとき、
『君を屋敷にむかえたい、妻として』
 公然と言い放った。

 そのときからヴェンは臣下の礼をとっていた。

「すぐにいらっしゃいますよ、あなたを迎えに」
 労わるように言う。
 
「しかし、心配なこともあります」
「え?」
「バッハスの残党です。彼らはバッハスに帰るためにやっぱりこの山岳地帯を通るでしょうね、時間的にも今日から数日が一番危険なんです」
「・・今日から、数日」

 そのためにアーロンは側近の部下四十名をここに残してくれた。
 彼らが周囲に散らばって警戒してくれてはいるが。
  
「しかも今度は敗残兵だ、自暴自棄になって何をしでかすかわからない。おまけに、往路でこの洞窟の存在を知っている兵が何人もいるんだ。彼らが仲間にそれを知らせたら、そうとう危険なことになってしまうんです」