逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ

「お、お早うございます。その、どこへも行く訳では」
 その目が泳いでいた。

「何か用があればお申しつけください。声をかけて下さればすぐ参りますので」
「そうね、でもそれほど用ということもなくて」
 困ったように目を伏せる。

「執事殿」
 リズがあわてて呼びかけた。
「向こうの、ほら玄関脇の鎧戸(よろいど)ですが、あれが閉めにくくなっているのです。すみませんが直してもらえますか」

「鎧戸ですと、なぜ急にそんな事を。そんな雑用は下男に頼みなさい。私はソフィー様とお話をしているのですよ」
「いえ、あの下男は力加減が出来ません。あのバカ力で閉めようとすると壊れてしまいます」
「そんなことを言ってもですな、私は」

「とにかく来てください」
 有無を言わさず連れて行く。
「執事殿が上手なのです。この前もあの扉の中心を持って直してくれたじゃありませんか」

「この前だって? あれは他に誰もいなくて仕方なくだな」
 そんな声が遠ざかる。