シュテルツはまだ意識が無い。
 
 アーロンが枕元で書類を見ていた。
「北部地方の決裁書だと? 認可するか否か今日中に決めろだと? そんなことができるものか、ちっとも分らんのだからな」

 部屋の扉がノックされた。
 事務官が途方に暮れて、
「我々でできる決裁はなんとかやっております。しかしどうしても宰相殿の印が必要なものがあるのです」

 その、どうしてもという書類が山と積まれていた。

 うなりながらまた書類をめくる。
 そんな部屋にかすかに人の声がした。

「がんばって、・・いるじゃないですか」
 シュテルツが目を開けていた。

「気がついたのか、大丈夫か、しっかりしろ」

「政務の仕事も、がんばっているようですな。さすがは、レブロン様のお孫さまだ」

「冗談を言っている場合ではない。お前がいないから仕事が山のように溜まっているのだ。いきなり決済しろと言われてもこんな物がわかる訳はないだろう」