「それから、湯殿にはいつも湯が沸いていて」
 と言いかけて声を落とした。

「あ、別にかまわないぞ。疲れているならそのまま部屋に直行しても」
「え」

「しなくてもいいんだ、湯あみなどは。俺はぜんぜん気にならないからな。部屋は階段を上がってすぐの所だ、その奥に寝室があって」
「っ、アーロンさま」

 小声とは言え湯殿の話のすぐあとだ。
 使用人は無表情を装っていた。しかしそれが返って突き刺さる。

「夕食がすんだらそのまま行ってくれていいんだ。俺も後からすぐそこへ」
「止めてください!」

 顔を赤くして抗議した。

 食事中の席を蹴ってでも逃げ出したくなった。


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