逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ

 ハインツ邸は大所帯だ。
 執事に家令や警護兵、門番や大勢の侍女がいる。

 そして屋敷に出入りするアーロンの側近がいた。それらの顔と名前を覚えるだけでも大変だった。

『この家の、女主(おんなあるじ)になってくれ』
 アーロンはあのとき言った。
 その思いに答えたいと懸命になっていた。

 相変わらずアーロンは王宮に行ったままだ。シュテルツの容態は一進一退を繰り返しているという。

「これは長期戦になるかもしれませんね」
 そう言うリズもレブロン邸とを行き来してゆっくり話す暇もなかった。