逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ

 その夜はまんじりともせず明かした。

 始めての部屋で始めてのベッド、すべてに馴染んでいけない。
 それ以上にシュテルツの容態を思って眠ることが出来なかった。

 翌日もアーロンは帰って来なかった。
「いずれ連絡がございましょう。何かあればすぐお知らせいたします」
 執事が声をかける。

「ああ、もうすぐレブロン邸に負傷兵が到着する時刻ですね。ソフィー様はお迎えにいらしたらいかがでしょう」


 レブロン邸ではリズが迎えてくれた。
 あいさつもそこそこにシュテルツの話になる。

 経過はここにも届いていなかった。
「もし軽傷なら、心配いらないという連絡があるはずなのですが」
 その言葉にまた不安がつのる。

 馬車が何台も到着したのは昼前だった。
 中から次々と負傷兵が出て来る。

 自力で歩ける者が降り立って屋敷を見上げた。
 その荘厳さに息を呑む。

「みんな、よく来たわね」
 出迎えたソフィーに、
「道中皆様が大変よくして下さいました」
「お嬢様、こんなお屋敷に滞在させてもらえるのですか、我々のような者を」
 彼らはラクレス領の平民だ。

「大丈夫よ、アーロン様が遠慮なしにとおっしゃっていたわ」
「ありがたいことです、本当に」

 洞窟から来た侍女もここで兵の世話をすることになった。

 一行の中にはラナとデイズ、その赤ん坊もいた。
 彼らは一室をもらってデイズの治療をしながら暮らすことになった。


          * * *