逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ

 それにしても不思議な娘だったな。

 アーロンは顎を撫でながら思った。
 意志の強そうな眼をしていた。
 仮にも領主の娘だ、それがなぜケイネの屋敷に引っ立てられようとしていたのか。

 山へ帰らなければと焦った面持ちは本物だと思った。

「お金を貸していただけますか」

 初対面のアーロンに頭を下げるなどと。領主令嬢たる身でどんな事情を抱えているのか。

 バッハスとの国境を改めて思った。

 一か月前にバッハスが越境して来た。紛争と言われている例の件だ。
 迎え討ったラクレス隊に大勢の怪我人が出た。
 ひとしきり戦ったあとでバッハスは引いた。

 そのあとで何かが起こった気配がある。
 偵察隊を出しているがこれといった情報がない。
 
 明日はヴェンからの報告が来るはずだ、それを待つことにしよう。

 窓を見た。外はとっぷり暮れていた。


          * * *