逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ

 シュテルツは向こうに目をやった。

 大きく傾いている家があった。柱の幾つかを失い今にも倒れそうに見えた。
 その中でうごめいている影がある。

 声をかけて馬車を止めさせた。
 先導する騎兵が何事だろうと振り返る。

 地上に降りた。そして、
「もし、そこの人」

 うごめく影に告げた。

「この家は危険だ。崩れるかもしれない、中にいないほうがいいぞ」

 影はぎょっとしてこっちを見る。

 えっ、と思った。
 影が走って来たのだ。
 手にナイフを持っていた。

 それが振り下ろされる。
 シュテルツが声にならない声を上げた。