東の空から月が登ろうとしていた。

 夕暮れの街をもう一つの馬車が進んでいた。
 乗っているのはシュテルツ、レブロンの屋敷を出て自宅に帰る途中だった。

 先ほどア―ロンとソフィーに意味のある言葉を託した。
 言い終えて大事な仕事を終えた気がしていた。

 言外にこの国の将来について語ったのだ。
 示唆した意味をどのように捉えているのか、二人には戸惑いがあった。

 今、ア―ロンは精力的に戦後処理をやろうとしている。戦傷兵への対応にレブロン邸を使うなど頭が下がる思いだ。

 彼は新しい国を創るための重要人物になるだろう。
 寄り添っているソフィーをも見た。なぜか深い所から笑みがわいてくる。


 馬車は大通りに入った。
 あのバッハスの侵攻で濁流が押し寄せた通りだ。

 両側の建物はほとんどが全壊、もしくは半壊していた。
 かろうじて石造りの家は残っているが人の住める状態ではない。