この国、グリントールの王宮は広い敷地に大小の建物がある。
 中央は王族の塔がそびえ、それを挟んで東は政務関連、西は国軍が在する双翼の造りになっていた。

 その政務室の最上階で、二人の高官が向かい合っていた。
 話が進むにつれその声が熱を帯びていく。

「だから、バッハスとの国境に国軍を送るべきなのだ」
「確かにそうだ。この間は紛争が起きてラクレス兵が負傷したそうだな」

「怪我を負ったのは四十人余りだそうだ。半端な数じゃないぞ、これは」
「・・ああ」

「だからすぐにでも国王に承認をもらってくれ。そうすれば俺が国軍を率いて出陣できるんだ」
「まあ、落ち着けアーロン」

 彼らは共に五十がらみだが、片方は好々爺、
「これが落ち着いていられるかっ、国の存亡がかかっているんだぞ」
 片方はまだ青筋を立てる熱血漢だった。

「そうは言ってもなあ、国王には何度も出兵の要請を出しているのだ。しかし・・」
「しかし、うんと言わんのだろう?」
「・・・・」

「ううっ、あのぼんくらが! この国を潰すつもりか、あの愚王が」
「おい、まて! そんなことを言ったら摑まるぞ、不敬罪で投獄されるではないか」

 あわてて止めようとしたのは、この国の宰相であるシュテルツだった。
 そんな彼に食って掛かっているのは、国軍の最高司令官アーロン・ハインツだ。

 対照的な彼らは行政と軍のトップだ。共に国の重責を担う屋台骨でもある。

「昔から隣国のバッハスは、このグリントールを狙っているんだ」
「・・うん、まあそうだな」

「それがわかって何の手も打たないのかっ」
「しかし、国境に兵を送るには確かな証拠が必要なんだ」

「それを掴むためにも行動を起こすべきだろうが」
「だから上部の意見がだな・・・」

 喧々囂々の声はいつ終わるともなく続いている。


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