だから、余計に苦しくなるんだ。



長谷川くんの心中を少なからず察してしまう私は、どうすることもできないから。



「ね、長谷川くん」



にこり、この空気に似つかわしくない笑顔を浮かべてわざと声を弾ませた。



怪訝そうな長谷川くんに、口角を上げたまま。



「ドーナツ食べたくない?」



手で丸を作ってそう言った。







ザワつく店内。



女の子たちの視線が集まるのは、あまーいドーナツじゃなくて。



「…どれにしよう」



トングを片手に、何を食べようか迷っている長谷川くんの甘い横顔だった。



優柔不断だなぁ…。



私は横で苦笑しつつ、取りたいものをさっさと取ってレジに進んだ。



「長谷川くん、奥の席で待ってるね」



「あぁ、悪ぃ」



未だにドーナツを凝視する彼を横目に、お気に入りの席へと向かった。



ここは学校の近くにあるドーナツ屋さん。



帰り道に寄る高校生が多い印象。



その多くは女子だけれど、たまに男の子も来たりする。



それでもやっぱり、こういうところに男の子がいるというのは珍しいこと。



その珍しい存在がアイドル顔のイケメンである長谷川くんというのもあって、女子たちの視線をかっさらっている。