放課後の、人通りが少ない下駄箱で一人佇む。



海琴ちゃんと九条先輩の背中を見つめながら、ぼーっと立ち尽くしている。



それは、私一人じゃないわけで。



「…声、かけなくてよかったの?」



しんとした空気の中に私の声が響く。



海琴ちゃんが九条先輩に気づく前に、私は知っていた。



ここにもう一人、彼がいることを。



「…かけられるわけねーだろ」



罪を暴かれた罪人のような、決まりの悪い顔をした彼───長谷川くんが影からおずおずと出てきた。



その表情からはいろんな色が見て取れる。



今、長谷川くんが抱えている感情。



私には計り知れない。



「真っ先に“あいつ”のこと見つける古賀を見たら、声なんてかけられるわけない」



視線を外して、2人が校門から出ていくところをただ見つめているだけの長谷川くん。



…難しいな。



長谷川くんの気持ちも、海琴ちゃんの気持ちも…九条先輩の気持ちも。



全てが上手く噛み合うなんてことは、まずありえない。



どこかで必ず食い違いが起きるもの。



それを知ってるのは私だけじゃない。



見ているこちらが苦しくなるくらい顔を歪めている長谷川くんが、1番よくわかってるはず。