「わ、私先に行くからっ…!!」
我慢の限界はとうに超えていたけど、さすがに辛抱たまらなくなった私は、人生で一番速いと思われる素晴らしい走りを見せた。
「は…?おい待て…って、こういう時だけ足はえーな…。ま、逃がさねぇけど」
置いてけぼりをくらったなるちゃんが、悪役並の黒い笑みを浮かべていたのは私の知るところではない。
*
「っはぁ…はぁっ…も、無理っ…足が、壊れる…」
全力ダッシュで登校したから色んな人に変な目で見られてるけど、今はいちいち気にしてられないよね。
体育でもこんなに速く走れたことないのに、よく頑張った私…。
下駄箱の壁に手を付きながら自分を褒めたたえてていると。
「古賀おはよー…って、なんでそんなボロボロなんだ…?」
「は、長谷川くん……」
「おー…マジで疲れてんな」
物珍しい顔で見てくる彼は、長谷川 湊くん。
セットされた明るい茶髪と、左の耳にキランと輝くシンプルなピアス。
アイドルっぽい美形の顔でニコッとしたら、卒倒する女子は星の数。
いわゆるイケメンと呼ばれる長谷川くんは、クラスメイトであり隣の席の友達である。



