「わたし、松葉さんのことワルイ男だとずっと思ってたんですよね」


次にあの男に会ったときに、わたしがふと漏らしてしまったことだった。


「へえ。そうだよね。俺のこと芝池さんの婚約者だとずっと思ってたんだもんね」

「その言い方やめてもらっていいですか」

「そうだよね。婚約者いるのに柚葉ちゃんにいろいろちょっかい出して、俺ワルイ男だったんだね」

「だから誤解だったって言ってるじゃないですか」


いつまでも拗ねた様子を見せられると、さすがに面倒くさくなってくる。

今まではそうだったのに、今はそれほど嫌な気分にはならなかった。


「今まで俺のことワルイ男だと思ってたから、避けてた部分あるでしょ?もう避ける理由がないよね」

「それとこれとは話が別です」

「ということで、柚葉ちゃんをデートに誘いたいんだけど」


あれから変わったことが一つある。

この男がわたしのことを名前で呼ぶことが増えたこと。

以前は“キミ”と呼ばれることがほとんどで、ときどき名前呼びだった。

それが今では名前呼びが当たり前になってきている。