「大丈夫、大丈夫だから。キミはちゃんと彼氏のこと好きだよ」

「前はわたしに彼氏のこと好きじゃないでしょって言ったくせに」

「うん、言ったね。俺が悪かった」


もうわけがわからない。

いつもは意地悪なのに、こんなときだけ優しくなって。


「大丈夫だよ。キミは彼氏のことちゃんと大事に思ってるから」


そうだ。

わたしは歩くんのことが大切。

それは間違いない、けど。

何かが違うと思っているのも確か。


「頑張って彼のことを好きになろうとしてたよね。大丈夫。柚葉ちゃんは彼のこと好きになってたよ」

「うん」

「でも、好きになろうと思って好きになったのは恋じゃないよ」

「……え」

「恋はね、好きになろうと思わなくても、気づいたら好きになっているものだよ」


さっきはちゃんと歩くんのことが好きになってるって言ってたのに。

またわけがわからない。


「松葉さん、またイジワルになった」

「うん、俺はワルイ男だからね。全部俺のせいにしていいよ」

「松葉さんなんて、キライ」

「うん、今はそれでいーよ。今だけは右手もあげるから。右手も今日だけは柚葉ちゃんのものね」


松葉さんはワルイ男。

だけど、その男の手だけは温かくて優しい。