姉の婚約者はワルイ男




連れてこられた最上階のこの男の部屋は想像以上に何もなかった。


「ここで暮らしてるんですか?」

「言うと思った。全然、物置いてないでしょ?必要最低限のものしかないんだ」


それもそうだけれど、このマンションの入り繰りに来た時からずっと不思議だった。


「大手楽器メーカーの次期社長とは思えない部屋ですね」


普通のサラリーマンの20代男性の一人暮らしと聞いたら納得してしまうくらいの、最低限の広さしかない部屋。

それから、リビングにはテレビとソファー、ローテーブルが置いてあるだけ。

奥の寝室らしき小さな部屋にはベッドがあって、キッチンには冷蔵庫や電子レンジが置いてあるだけだった。

調理道具はないし、洗面所にも洗濯機が置いてあるのがかろうじて見えるくらい。

本当に必要最低限のものしか置いていないようだ。