「どうして?ゆず、もしかして寂しいの?」

「いや、そういうんじゃなくて」

「じゃあ、なによ」

「お姉ちゃんだって会いたいでしょ。婚約者に」


プライベートの時間はすべて姉のために使っていそうなあの男。

きっとそんな一途な思いを向けられたら、お姉ちゃんだってきっと。


「確かに会いたいけど。家じゃなくても会えるしね」

「え?」

「彼とはいつも彼の家で会ってるから。別にいいのよ。会いたいときに会いに行けるしね」


お姉ちゃん、松葉さんの家に行ってるんだ。

結構順調なんだな。


だったら、わたしの知らないところで2人はあの男の家で会っていたってこと?

もしかして、あの男がいつも家に来るのは、お姉ちゃんを迎えに来ていたからだったりして。


「そうなんだ。ごめん、お姉ちゃん、邪魔して。今から練習でしょ?バイオリンの」

「別に邪魔してなんてないわよ。練習って言ってもコンサートはまだ先だしね」


姉が忙しいことを言い訳にしたかっただけかもしれない。

早くこの部屋から出たかった。


居心地が悪い。

そして、その理由がわからないのが、とても歯がゆい。


わたしは逃げるようにして、姉の部屋をあとにしたのだった。