「いや…、無理」
「なんで?」
はあ。
お前さ、空気読んで?
放課後まで柊里に時間使えるほど、余ってねえの。
特に今日は……せっかくのデートだから。
「飯食いに行くから」
「…芦屋さん?」
そうそう。
その”芦屋さん”。
お前とは似ても似つかないくらい、超かわいいあの子。
「ねえ……、芦屋さんのどこがいいの?」
どこって?
難しいこと聞くね。
「端的に言葉じゃ表しきれない。少なくとも、お前より百億倍はいい子だよ」
プライド傷つけられた顔?
ざまあみろ。
過去に凛久のことけなした罰ね。
俺、好きな人に関しては根に持つよ? 結構。
「…あたしのほうが、かわいいのに」
またソレ。
いつになったら認めるの?
お前じゃ凛久には勝てない。
柊里とそんなくだらない会話をしていたら。
突然視界の端っこに、さっきまで寝ていたはずの凛久が映った。
教室の前のドアから走っていく凛久。
ゆるく巻かれたダークブラウンの髪が揺れるのを、見過ごさなかった。
「俺もう行くわ」
「え? ちょっ…」
戸惑う柊里を置き去りにして、ただひたすら、その影を追いかけた。



