一躍して有名人になってしまった当の本人は、『興味ない』なんて突っぱねてたけど……。
ホントはうれしいんでしょ?
あたし、知ってるよ。
高校生活初日のことを思い出していたら、突然声が降ってきた。
「なにニヤニヤしてんの」
「……へっ?」
現実世界に引き戻されたわたしが最初に見たものは、夏向の真っ黒な瞳。
吸い込まれそう、って昔から思ってる。
「み、見ないでよ変態!!」
「見てんのはそっちじゃん」
あたしの精いっぱいな罵倒も、夏向の前では無力。
頬杖をついてこちらを見る夏向の口角は少し持ち上がっている。
「……そんなに俺のことが気になんだ? 変態」
「~~っ」
もういいっ!
夏向なんて、本当に知らないっ!!
ニヤニヤしちゃって、思春期男子かよ!
……見ての通り、毎日夏向にもてあそばれる毎日。
こんな意地悪男のどこを気に入ったのか、今となっては覚えてない。
でも確かに分かる。夏向は、いつだって誰より優しかったこと。



