「……隣、凛久かよ」
すぐ至近距離で、もう何年も聞いてきた声が聞こえてドキン、と心臓が跳ねた。
急にしゃべりかけられたら誰でもそうなっちゃうよね、うん。
横の席に腰をおろした男子生徒に目をやって、あたしはできる限りの笑顔を浮かべる。
「あたしは隣が夏向でうれしいけどなあー」
「なにその張り付いた笑顔、こわいんだけど」
……人がせっかく笑いかけてやれば!
もー、知らない。夏向なんて知らない!
と意気込んだ数秒後に、また隣の席に座る横顔を盗み見てしまうのは、あたしはこの男が好きだから。
好きって言っても、ラブじゃないよ。
ライクのほう、ここ重要。
いわゆる、お気に入り?
付き合い長いし、って言っても中学からだけど。
でも、思春期女子にとっての三年間ってめちゃくちゃ重要だと思うし、意外と長いんだからね。