知ってる。
ぜんぶ、知ってるよ。
浮気する前の漣は、そうだった。
女子に『かわいいって言ってよ!』と責められても頑なに言わないような男の子だった。
鮮明に、思い出せる。
「…ダメ元で言うよ」
「うん」
「……俺、りっちゃんとやり直したい」
はっきりと、迷いのない声。
うん。…言うと思った。
曇りのない瞳を見つめ返した。
漣、あたしのこと、好き?
あたしはね、大好き”だった”。
だから、迷わず、まっすぐ自分の気持ちを伝えるよ。
「…ごめん! あたし今、本当に大切にしたいひとがいて」
漣のことは、思い出として心の中に飾っとく。
大切な、アルバムの1ページ。
深々と頭を下げたあたしに、漣は笑いながら「顔あげてよ」と言う。
「ダメ元だって言っただろ」
「…うん」
「りっちゃんの、そういう真面目でまっすぐなところ、大好きだった」



