「…かなた」
熱に浮かされて、おぼろげな視界に夏向をとらえた。
心配で、会いに来てくれた、優しいひと。
あたしの、”お友達”四年目。
「ん?」
少しだけ眉をあげて、あたしの声に耳を傾けてくれる。
熱のときって、すこし人肌恋しくなるよね。
…ね、かなた?
部屋にふたりきりだよ。
意識してないのは、どっち?
ドキドキうるさいこの心臓は、熱のせいかな。
…本当に?
「…あたし、まだ怖い」
「…え?」
「漣のこと。また失うのが、こわいよ」
ずっと口にできなかった本音。
今でも気にしてるなんてバカバカしいかな?
だけど、あたしと付き合ったせいで夏向までバカにされるのは、もっとやだよ。
「…うん。過去のことなんか、俺が全部上書きしてやる」
だから、安心して。って、夏向の優しい声。
…ホント? 信じて、いいの?
もうろうとする、意識の中。
自分でもよく覚えていない。
都合のいいところだけ、熱のせいにしとく。
あたし。
夏向の腕をつかんで、その胸に飛び込んだ。
しがみついて、夏向の心臓に耳をあてる。
…ドキドキ言ってるね。あたしの心臓の音は、聞いちゃダメだよ。
「…り、く…?」
そっと顔をあげて、夏向のネクタイを引っ張って。
ーー小さく、触れるだけのキスをした。
目を丸くする夏向をみて口角があがる。
…もっと、あたしだけを見てて?
「…なんだよ、それ…」
夏向のつぶやいた声が届く前に、あたしは二度目の眠りについた。