『ね、どういう漢字かくの?』
『ええ?』
めんどくさそうな夏向に無理矢理ペンを持たせて、綾野さんの名前を紙に書かせた。
あたし、もしかしたら残酷なことしてたのかな。
だって、あのときにはもう…あたしのこと、好きだったかもしれない。
っていうか、好きだった?
『糸へんの綾に野原の野。…柊の咲く里』
『柊の咲く里?』
『俺は最初、そうやって覚えた』
綺麗な名前だよね。
柊里、って。
あたしも、自分の凛久っていう字はすきだけど。
柊里のほうが可憐な感じがする。
『柊って、ほんのかすかに甘い匂いがするんだって』
『へえ…』
『でも、葉の表面にはとげが生えてて、触ると痛いらしい』
そのときの顔だけ、鮮明に思い出せる。
切なそうに、笑ってた。…夏向。
『柊里は、柊に似てる。…かわいらしい見た目してんのに、いざ触れると痛い目みる』
『…付き合ってたの?』
『いや。…俺、柊里から、逃げた』



