「無理に忘れる必要ないじゃん」
「…え」
夏向がそんなこと言うなんて思ってなくて。
…びっくりした。
あたしのこと、諦めた?
もう好きじゃなくなった?
「…お前の傷が癒えたころに、俺が奪いに行くから」
そんなセリフを聞いて、ほっと胸をなでおろすあたし。
自分でも、何がしたいのかわからない。
奪うって、誰から?
もうあたし、誰のモノでもないよ。
…漣のこと、水湊くんなら忘れさせてくれるかもって思って付き合った。
自分のため。
完全なエゴ。
勘違いだった。
ぜんぶ、ぜんぶ。
水湊くんのこと、大好きだった。
それは本当。だけど…。
最初から最後まで、あたしはちゃんと恋愛感情を抱いてた?
水湊くんへの好きと、
夏向への好き。混合してなかった?
いまさら考えたって。
もう、水湊くんはそばにいない。
…会わない。
「そうだ凛久」
「…ん?」
「昨日映画借りてきたんだけど、一緒にみようぜ」
「…いいよ」
今はとにかく。
水湊くんのこと、考えたくない。
もうなにも、考えたくない。



